「いちご」さんと云ふ人が、誠に勇ましいニート批判を書いてゐます。經濟學的な啓蒙に格好の素材なので、少しく詳しく論評しませう。
生活保護受給世帯よりも低収入の「ワーキング・プア」が急増している。それらの人たちが国の世話にならずに、貧しいながらも働いているのは、ひとえに彼らの人間としてのプライドの故だろう。
人間は何の爲に働くのでせうか。「プライド」などと云ふ腹の足しにならないものの爲よりも、より多くの收入を得て生活水準を高める爲でせう。ワーキング・プア諸氏が現在貧しくとも働いてゐるのは、さうする事によつて將來の收入を「生活保護受給世帯」以上に高め得ると判斷してゐるからでせう。御承知のやうに、仕事と云ふものは「兔に角やつてみる」事でしかスキルを高められないし、能力を認めて貰ふ事も出來ません。例へば、無名のロックバンドは、極端な話、ノーギャラでも良いから兔に角舞臺に立たない限り、聽衆に認知して貰ふ事すら不可能でせう。しかし一旦認めて貰へれば、スターにはなれなくとも、それなりのギャラを手にするチャンスが生れます。要するにワーキング・プア諸氏も、いちごさんや私同樣、普通の人間として自分なりの予測や期待に基づいて就勞と云ふ行爲を選擇してゐるに過ぎず、それを「プライド」などと云ふ言葉を使つて賞揚するのは、無用のおべつかであり、倒錯した「弱者崇拜」であり、まるで動物園のパンダ扱ひするやうな甚だ無禮な態度であるとさへ云へます。
そういう人たちにこそ、手厚い救済策が施されるべきだ。その乏しい収入からも、容赦なく所得税は徴収されているのである。
經濟に無知な論者に典型的な主張です。「手厚い救済策」の内容が何であれ、政策として實施する以上、原資は税金以外にあり得ません。覺えておいて貰ひたいのは、政府が民間からより多くの税金を取立てれば、その目的がたとへ貧者救済であらうとも、その徴収先がたとへ貧者以外であらうとも、結局は貧者自身をさらに貧しくすると云ふ事です。なぜなら政府が税金を徴收した分、企業は設備投資や技術開發に充てる資金が少なくなり、個人は消費に囘すお金が足りなくなり、全體として經濟が停滯する事になるからです。經濟全體が停滯すれば、勤勞者の取り分が小さくなり、その中でワーキング・プアの取り分が現在よりもさらに小さくなるのは火を見るよりも明らかでせう。ワーキング・プアから所得税が容赦なく徴收されてゐる事は確かに理不盡ですが、その理不盡をさらなる税金徴收で解決しようと云ふのは全くの見當違ひです。ワーキング・プアを救ひたいと本心から願ふのなら、ワーキング・プアを含むあらゆる人の税負擔を減らす方策を考へるべきなのです。
その一方で、親のすねをかじりながら、「ワーキング・プア」が支払った税金で整備された社会資本の恩恵を、のうのうと享受するニートどもがいる。
「ニート憎し」の感情のせゐか、論理展開がますますをかしくなつてゐます。まづ、すねをかじる行爲は、かじられる親とかじる子の合意の上に成立つてゐるのですから、他人がとやかく云ふ筋合ひのものではありません。ニート太郎やニート花子が親のすねをかじつたからと云つて、いちごさんや私の財産が減るわけではないでせう。次に、いちごさんはニートが所得税を納めてゐない事が氣に喰はないやうですが、働いてゐないのだから所得が無いのは當然で、所得が無ければ所得税を納めないのも當然です。どこが問題なのでせうか。ニートは所得税を納めないと云ふ利便と引換に、自由になる金が少ないと云ふ不便も甘受してゐるのです。もしもニートの經濟的境遇(利便と不便の差引)がそれほど素晴らしいものならば、そこそこの收入のある親を持つ日本人全員がとうの昔にニートに“轉職”してゐる筈ですが、さうなつてゐないのは、大半の人がニートの經濟的境遇を羨ましいと考へてゐない證左でせう。それから、「社会資本」(多分道路や橋やダムの事でせう)の整備に使はれた税金のうち、ワーキング・プアが納めた部分は恐らく微々たるものであつて、大部分は金持ちや中産階級が納めたものでせう。だとすれば、いちごさんが賞揚するワーキング・プア諸氏も、ニートほどではないにせよ、金持ちや中産階級の「税金で整備された社会資本の恩恵を、のうのうと享受」してゐる不逞の輩の一派と云ふ事になつて仕舞ひます。やはりいちごさんはワーキング・プアの事が本當は嫌ひなのでせう。
奴らは言う。「俺は秋葉原で美少女アニメのキャラクターグッズをたくさん買って、その分消費税を支払っているんだ! 所得税だなんだとガタガタ抜かすな!」と。しかし、根本的に間違ってるよな。
どこが「根本的に間違ってる」のでせうか。所得税も消費税も同じ税金です。賣つた商品が高級外車だらうがパソコンだらうがポルノ雜誌だらうが、その稼ぎから拂ふ所得税はすべて貴重な血税であるのと同樣、買つた品物が美少女アニメのキャラクターグッズだらうが有機野菜だらうが哲學書だらうが、拂ふ消費税はすべて血税です。
そんな連中が一知半解の政治論議をネットで展開しても、説得力なんてまるでない。
一知半解の經濟論議をネットで展開する手合ひは、ニートであらうがなからうが、困つたものです。
日本国憲法で定められた「勤労の義務」も満足に果たせない連中が、現行憲法無効論などを主張するのだから笑止千万だ。
いちごさんこそ、日本國憲法で定められた「言論の自由」について何も分つてゐないやうです。
昔福田恆存が「弱者天国」という論文を書いていたはずだが、今の日本は「無職天国」「ニート天国」だろう。次の参院選では、これらの倒錯した労働環境の改善を目指す政党の躍進を望む。ニートは断じて、現代社会の犠牲者や被害者などではない。彼らを甘やかして遊ばせているその親たちの税金や保険料を値上げするなど、懲罰的な政策をぜひ実現に移してほしい。
參院選ねえ……そもそも參議院て必要なんでせうか。いちごさんは餘程税金や政治や懲罰が好きなやうですね。私もニートが政治家や役人や一部の學者の出世の道具になりつつある現状を憂いてゐますが、それに對する處方箋はいちごさんと全く異なります。ニートを無理矢理働かせようとする政策など税金の無駄遣ひ。親の税金や保険料を上げれば經濟全體が停滯するばかり。働きたくない人は放つておけば宜しい。その代はり、税金による生活費補助などは一切やらない。そのうへで彼らがささやかな(親の收入によつては結構な額の)小遣ひで秋葉原に買物に出掛けて行つたとして、何を咎める必要があるでせうか。他人の世話を燒くのは止めて、自分の頭の蠅を追へ、と云つておきませう。
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