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2005年1月16日 (日)

誰も知らない國アメリカ

 アメリカの影響が浸透するところでは、かならずそれは知識人の恐怖と敵意をかきたてる。アメリカの影響にはそれほどまでに外國の知識人を不快にしおびやかす何かがあるのだらうか。[中略]ある國のアメリカ化とは、そこに無階級的樣相、つまり平等を暗示する一樣性を與へる、といふことにひとしい。外國の知識人が恐れ、激昂するのはまさにこの點なのである。彼は貴族的雰圍氣の喪失を個人的に受けた傷のやうに感じる。猫も杓子も自分を他の人間と同等であると考へ、尊敬し崇拜する能力が萎縮するやうな世界は、單調で刺戟のない世界なのだ。知識人にとつてこれは眞に「神なき」世界であり、これこそ彼が痛罵する「卑俗」さであり「低級化」なのである。(エリック・ホッファー『現代といふ時代の氣質』、柄谷行人譯、晶文社)

 アメリカは古い物と新しい物とが同居する不思議な國である。そしてアメリカほど外國の知識人から疎んじられる國も無い。早い話、アメリカ的なるものを熱烈に支持する港灣勞働者出身のアメリカ人哲學者エリック・ホッファーの著作を飜譯した柄谷行人にしてからが、現在では日本における代表的な反アメリカ的言論人の一人になつて仕舞つてゐる。その點では、「革新派」の柄谷も「保守派」の西部邁や佐伯啓思も撰ぶところは無い。

 慥かにアメリカは理解しやすい國ではない。古典的アメリカ論を書いたアレクシス・ド・トクヴィルでさへ、「猫も杓子も自分を他の人間と同等であると考へ」るアメリカ社會がいづれ道徳的無秩序に陷るだらうと豫言したが、今のところその豫言は當たつてゐない。ヨーロッパでは廢れた素朴な信仰心が超大國アメリカではなほ生きてゐる。何故なのだらう。考へれば考へる程アメリカは不思議な國である。

 それにしても日本では、アメリカが歴史の淺い單純な國であり、アメリカ人が單純なヤンキーであると云ふステロタイプの言論ばかりが餘りにも流布し過ぎてゐる。何しろ日本で「ヤンキー」と云へば、それは頭の單純な不良を意味するのである(昔、「トルコ風呂」と云ふ呼び名はトルコに失禮だと云ふ理由で「ソープランド」に變へられた事があつたが、「ヤンキー」は問題無いのだらうか。アメリカ人差別ではないのか)。ブルースやゴスペルはキリスト教信仰との關係拔きに語れない。ゴスペルと云ふ言葉は本來聖書の福音を意味する。だが日本に來ると、「可愛さうな黒人の作つた反體制的音樂」と云ふ面ばかりが強調されて仕舞ふ。

 日米は政治的軍事的經濟的にこれだけ深い關係にありながら、我々はアメリカの事を餘りにも知らない。知識人もマスコミも眞のアメリカを傳へようとしない。日本のアメリカ通と云へば植草甚一だの常盤親平だの大橋巨泉だの、日本人が受容れやすい部分だけを受容れやすいやうに喧傳する手合ひばかりである。一般の日本人は「おフランス」ならぬ「おアメリカ」の像しか知らず、その虚像を好きだの嫌ひだのと論ふ。そのやうな歪んだ状況を永年放置した言論人知識人の責任は重い。

 (2005.1.16追記)日本の「ヤンキー」の語源はアメリカ人を示すヤンキーとは違ふかもしれないが、この部分は飽くまで冗談なので眞面目に批判しないやうに。

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2005年1月11日 (火)

米CBS、大統領の軍歴疑惑報道で幹部4人を解雇

 【ニューヨーク=篠原洋一】ブッシュ米大統領の軍歴疑惑報道に誤りがあつたとして米CBSテレビが強い批判を浴びてゐる問題で、CBSは10日、この報道に關與したプロデューサーなど幹部4人を解雇したことを明らかにした。この問題の背景を調べてゐた第三者委員會は同日、「過熱した特ダネ競爭が誤りを引き起こした」とする調査報告書を公表した。 /問題の報道はブッシュ大統領のベトナム戰爭時の軍歴疑惑が大統領選の爭點に浮上してゐた昨年9月に放映されたが、CBSはその後、内容に誤りがあつたとの聲明を出す事態になつてゐた。調査報告書は「報道の根據となる資料が本物か確認することを怠つた」と斷じた。その背後には一刻も早く報道しないと他局に負けるとの意識があつたと分析してゐる。/この問題を番組でリポートしたCBSの看板キャスター、ダン・ラザー氏は今年3月に降板する意向を表明してゐる。 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20050111AT2M1100L11012005.html

 CBSの尻馬に乘つてブッシュ大統領を攻撃した日本のキャスターや評論家は、どうするのだらう。裏を取らないと後で困りますよと云ふお話。

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嫉妬、この人間的なるもの

 男性と女性のあいだの軋轢が、人間が進化させてきた配偶心理から生じてゐるといふ事實は、一部の人々にとつては衝撃的だらう。それはひとつには、この事實が廣く流布してゐる通念に反してゐるからだ。男女間の軋轢が生じたのは、特定の文化的習慣が人間本來の自然な調和をこはした結果なのだといふ見方を、大部分の人が身につけてしまつてゐる。しかし、女性が性的な暴力を受けたときに感じる怒りや、男性が妻を寢取られたときに感じる憤りは、人間が進化させてきた配偶戰略から生じたものであつて、資本主義や文化や社會化の結果ではない。進化は、繁殖成功度といふ非情な判斷基準にしたがつて進行していく。その過程で生みだされる戰略がどれほど反感を招くものであり、その戰略の結果がどれほど忌まはしいものだらうと關係ない。(デヴィッド・M・バス『女と男のだましあひ――ヒトの性行動の進化』 狩野秀之譯、草思社)
 現代科學は、動物の進化や宇宙の起源のみならず、人間の男女間の感情についても合理的に解讀しつつある。女はなぜ強姦に烈しい怒りを覺えるか。劣等な遺傳子を持つ子供を強制的に生まされるコストを負ひかねないからである。男はなぜ女の浮氣に憤るか。自らの遺傳子を殘せないうへ他人の遺傳子を持つ子供を育てるリスクを抱へ込むからである――。バスは進化論の成果の一つである進化心理學を驅使しかう説く。その説明は極めて合理的であり腑に落ちるものである。

 バスは科學者らしくかう云ふ。「人間の性戰略の多岐にわたるレパートリーを理解してはじめて、われわれは自分たちがどこから來たのかを知ることができる。なぜさうした戰略が進化してきたのかを理解してはじめて、人類がこれからどこへ向かふのかをコントロールできる」。恐らくその通りであらう。しかし、そのやうな理窟を理解したからといつて、男が自分の女房を寢取られた時に落ち着いてゐられるやうになる譯ではないし、女が強姦された時に冷靜に振る舞へるやうになる譯でもない。いやいや、そのやうな場合に決して心穩やかにしてゐられないやうに自然淘汰は人間を進化させたのである。怒りや嫉妬を知らない人間は生存競争に敗れ、子孫を殘せないのである。

 個人としての人間が怒りや嫉妬と云つた苦惱から逃れる事は出來ない。従つて、例へば、合理的ならざる宗教の存在意義が消える事は無いのである。

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2005年1月 7日 (金)

記事削除のお知らせ

 1月2日付「『國語問題論爭史』に就いて」の記事は、情報の入手・公開の方法に不適切な面がありましたので削除致しました。關係各位には御迷惑をおかけ致しました。お詫び致します。

 (1月8日追記)不適切な「情報の入手・公開の方法」とともに、事實認識にも正確を缺く部分があつた事を申し添へます。重ねてお詫び申し上げます。

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2005年1月 1日 (土)

またぞろ大東亞共榮圈

 元日付朝日新聞の社説は「アジアに夢を追ひ求め」。今年、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓三國がマレーシアで「東アジアサミット」を開く事に觸れつつ、「アジアの實情にあつた緩やかな共同體の實現に向けて、まづは夢を追ひ求めたい」とアジア共同體構想を後押しする内容である。またか。朝日は以前からアジアの「連帶」に熱心だが、その背後には反米主義が色濃く滲んでゐる。今囘の社説では「『反米』に走るのではない。日本がアジアにしつかりした基盤をつくることは、健全な日米關係にとつても決して惡いことではない」と書いてゐるが、わざわざ反米ではないと斷る事自體、常識的には反米とみなされても仕方の無い主張である事を自ら認めてゐるやうなものである。

 事實、舊臘十二月二十五日付の國民新聞によれば、東アジアサミット開催が決まつた翌日、アメリカ國務省のリース製作企劃局長は「新しい制度、協力のやり方が米國を排除しないか懸念してゐる」と不快感を示したと云ふ。一方、十二月六日付の日本共産黨機關紙「しんぶん赤旗」は「東アジア共同體現實化への一歩」の見出しで、アメリカ外しの潮流を歡迎する旨の論評を載せたと云ふ。アメリカを排除した東アジア共同體が出來れば、軍備力を急速に増強する中國がそれを事實上牛耳る事になる可能性が極めて高い。そんな「共同體」に日本が積極的に係はる事にどんな利點があると云ふのか。これも國民新聞からの引用だが、米國際政治學者のフランシス・フクヤマは「中國は東アジア共同體構想の經濟面を強調するが、中國は擴張主義の刃を隱してゐる」と明言してゐると云ふ。

 中川八洋は戰前日本の「アジア主義」についてかう述べてゐる。「日米對立がいよいよ本格化するのは第一次世界大戰後であつたが、それは日本における『アジア主義』といふ“迷信”が蔓延したことも一因であつた。[中略]この『アジア主義』は、日本の場合、一九二〇年代から三〇年代にかけて、ロシアの共産革命後にたうたうと流入するマルクス主義と化合してしまつた。ここに『アジア主義』が反自由主義のイデオロギーであるマルクス主義と混淆する以上、それは『反英米』と同義語となつていかざるをえない。[中略]かくして年を經るごとに『アジア主義』は『アジアからの英米追放』の運動となつた。朝日新聞が煽動する『鬼畜英米』のキャンペーンもこれであつて、日本は冷徹な外交のために不可缺な合理的思考がいつしか痲痺して、最終的には、一九三七年の近衞内閣の成立と指導のもとで日本の外交路線として決定されていくのである。」(『近衞文麿とルーズヴェルト』)

 嘗て「鬼畜英米」を呼號し大東亞共榮圈を後押しした朝日が、今又元旦の社説でアメリカ拔きの東アジア共同體を持ち上げる。桑原桑原。

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