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2004年12月25日 (土)

日本人と言論

 通常、左翼思想(主として日本ではマルクス主義)はその反對の右翼思想とは無關聨のやうであるが、私は戰前の右翼思想とくに革新右翼に對するマルクス主義の影響は強かつたと思ふ。いつたい、それはどういふことであらうか。まづ、第一に右翼思想でもブルジョアといふものを惡く見る傾向があるが、これは左翼思想の影響である。(中略)第二に、マルクス主義は革命ロマンチシズムを鼓吹したといへる。(中略)第三に、マルクス主義では所有關係の變更が目的とされてゐる。(中略)右翼思想のなかに私有財産制度を制限することにおいて計劃を發表したのは北一輝であるが、やはり、この考へ方から天皇に對する財産奉還論が生まれてくるのである。(中略)第四に、暴力を使ふことが同じである。(中村菊男『嵐に耐へて――昭和史と天皇』 PHP研究所、昭和四十七年。改行省略)
 合理主義を輕視する傾向に於いても、日本の右翼思想はマルクス主義に似通つてゐる。日本人はマルクス主義の影響を受ける前から合理主義を輕視して來たのだから當然だ。マルクス主義は科學を標榜した癖にさつぱり科學的ではなかつたが、少なくも西洋のマルクス主義者の中には、マルクスの主張の缺陷を理詰めではつきりと指摘したベルンシュタインのやうな人間がゐたのである。

 ミニコミ誌「月曜評論」は、編輯綱領で「左右の全體主義と戰ふ」と謳つてゐた。しかしベルリンの壁が崩潰し、日本では「右」に加へて「左」も立枯れとなり、月曜評論もお役御免となり休刊に追ひやられた。それでは大手マスコミ以外の言論はもはや不要なのか。さうではあるまい。左右の全體主義は消えても、その背後にあつた非合理的思考と情緒主義は、今なほ日本人の缺點である。中村菊男は上に引用した文章のやや後で「ムードに弱いのが日本人である」と書いてゐる。ムードに流されやすい同胞に警鐘を鳴らす言論は、これからも間違ひなく必要である。

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コメント

いつも貴HPを拝読してをります。今回も納得できました。ところで「ベルンシュタイン」については無知であります、ご教示願ひたく存じます。

27日はよろしくお願ひします、楽しみにしてをります。松岡さん(先の講演会後の懇親会で司会をされた方)も来られます。忘年会を兼ねた会合になりませうか。渡邊建

投稿: 渡邊建 | 2004年12月25日 (土) 01時33分

 エドウァルト・ベルンシュタイン(一八五〇―一九三二)はドイツの社會主義者で、所謂「修正主義」の理論的指導者です。マルクスの唯物史觀、階級闘争論、革命論、資本主義崩潰論等を實證的に批判しました。例へば、資本家階級と勤勞する人々の階級との間に利害の對立のあることは事實としても、その勤勞者の階級は農民や小市民を含み決して單一ではなく、彼らの間にも利害對立がある。従つて意志統一は事實上不可能であり、所謂プロレタリアート獨裁は成功しない、云々。(關嘉彦『社會主義の歴史』等參照)

 二十七日はどうぞ宜しくお願ひ致します。

投稿: 木村貴 | 2004年12月25日 (土) 17時55分

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