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2004年4月27日 (火)

松原正名言集 愛するといふ事

 避妊もしくは墮胎をあへてして「十全なる知的活動を維持」したとして、その「知的活動」とは一體何の爲なのか。結婚するといふことは妻や子供を愛するといふことであり、妻子を愛するといふことは、妻子のためにおのれの「知的生活」をも犧牲にするといふことである。いや、犧牲にするのは「知的生活」に限らない、われわれが誰かを愛するのは、その誰かのために多少なりともおのれを殺すことではないか。(『人間通になる讀書術』 徳間書店 45頁)

 渡部昇一氏の『知的生活の方法』ほど、まつたうな知識人から馬鹿にされたベストセラーも少ないであらう。いや、たしかに馬鹿な本である。ビールは頭が惡くなるからカントは葡萄酒しか飮まなかつた、といふ件を引いて、呉智英氏は「カントまで阿呆の仲間に引入れようとは恐れ入る」 と書いてゐたと記憶する。全くその通りで、葡萄酒で頭が良くなるのなら、日本一頭が良いのは女優の川島なお美といふ事になつてしまふ。

 冗談はさておき、馬鹿な本にも何かしら取り柄はある。私の場合、讀んだ本で感心した箇所を記録するには、赤鉛筆で印を附けるのが一番好いといふ事を學んだ。以前はノートに書き抜いたり、呉智英氏流のカードを作つたり、試行錯誤の繰り返しであつたが、本に直接印を附けるのが最も手間がかからず、長續きする。專門の學者でない限り、この方法で十分であらう。ずぼら な私には最適である。圖書館から借りた本だけノートかパソコンに要点を記せば好い。

 松原氏も、別の本では『知的生活の方法』に好意的なことも書いてゐる。 「天眞爛漫がいけないのなら正直と言つてもよい。渡部氏は學生時代の貧乏と刻苦を正直に語つてなんらの嫌味を感じさせない。それは希有の才能だと思ふ。」(『續・暖簾に腕押し』112頁)

 關川夏央氏は劇畫原作者の梶原一騎を論じて、現代において正直といふ徳が冷笑されてゐる不幸を指摘した事がある。しかし乍ら、人間、正直だけでは道徳的に不十分なのであつて、 渡部氏も「知的活動」とはそもそも何の爲か、といふ大事に對する思考の不徹底を露呈してしまつた。やはり物事を深く考へるには、葡萄酒だけでは駄目のやうである。

 「妻子を愛するといふことは、妻子のためにおのれの『知的生活』をも犧牲にするといふことである。」 私は二歳の娘が遊びをせがんで讀書やパソコンの邪魔をする時、松原氏のこの言葉を思ひ出して、遊ぶ。しかし言ふは易く行ふは難し。こらこら、お父さんは仕事で忙しい(嘘)のだから、好い加減に寢なさい!
(平成12年3月5日)

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