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2004年4月27日 (火)

松原正氏について

「論壇の人斬り以藏」こと松原正氏を知る人は現在少ないであらう。松原氏の文章は「文藝春秋」や「読賣新聞」には載らない。しかし松原氏は現代日本において最も注目すべき言論人であり、文學の本質に通曉した數少ない學者の一人である。

昭和四年、東京都生まれ。母校である早稻田大學の文學部教授を長く務めたが、平成十二年定年退職された。専攻は英文學。四十歳代後半の頃から「サンケイ新聞」「プレジデント」「月曜評論」など保守色の濃い新聞雜誌を主な舞臺に評論活動を展開し、人間に對する鋭い觀察眼と明晰な論理を武器に論敵を斬り捲つた。昭和五十八年に書いた文章で、「私は物を書き始めて約七年、ただの一度も喧嘩に負けた事がない」(「田中角榮さん、あなたは無罪になれる」『續・暖簾に腕押し』所収)と豪語してをられる。

しかし知的・道徳的眞摯を重んじ、徒黨を組む事を好まぬ松原氏は、「敵」である革新派知識人を斬るだけでなく、「身方」である筈の保守派言論人の知的・道徳的怠惰をも遠慮無く咎めた。「石原愼太郎、江藤淳、渡部昇一、西尾幹二、その他數多の保守派知識人を斬り捲つて、唯の一度も斬り返された事が無いものの、やがて『和を以て尊し』とする保守派論壇から干され、綜合雜誌には全く書けないやうになつた」(『文學と政治主義』「後書」)。現在、松原氏の文章が一般讀者の目に止まる事が少ないのは、さういふ事情が一因である。

「干され」た事をきつかけにジャーナリズムから距離をおいた最近の松原氏が最も力を注いでゐるのは、書下ろし本の『夏目漱石』に代表される文學論である。全三册のうち二册が地球社より刊行濟みである。また、師である福田恆存氏の全集未収録文集の編輯にも取組んでをられる。一方、「月曜評論」に保守派知識人批判「保守とは何か」を連載し、久し振りに「人斬り以藏」の刀の切れ味を見せてくださつた。現在、同誌において日本文化論の總まとめとも云へる「政治好色花鳥風月」を連載中である。

松原氏の著作はその内容によつて大きく三つに分けられる。
第一に、時論集。『知的怠惰の時代』(PHP研究所)、『道義不在の時代』(ダイヤモンド社)、『暖簾に腕押し』(地球社)、『續・暖簾に腕押し』(地球社)等がある。
第二に、長篇評論。『自衞隊よ胸を張れ』(地球社)、『戰爭は無くならない』(地球社)、『天皇を戴く商人國家』(地球社)、『我々だけの自衞隊』(展轉社)がある。
第三に、文學論。『人間通になる讀書術』(徳間書店)、『文學と政治主義』(地球社)、『夏目漱石』(地球社。既刊は上中卷)がある。

冒頭に書いた如く、松原氏を知る一般讀者は現在決して多くない。上に掲げた著作のうち絶版になつたものも數册ある。松原氏のやうな眞の知識人の文章が讀まれないといふ事自體、現在の日本の知的水準が如何にお粗末かを示してゐる。松原氏には少數だが熱心な固定讀者がをり、私自身もその一人だと自負してゐる。だが、もつと多くの人に松原氏の眞摯で徹底した思考と見事な文章に觸れてほしい。直接教へを受けた事も無く、浅學非才の私が、僭越を承知で「松原正名言集」を書かうと思ひ立つたのは、その一念からである。

私はこのサイト「地獄の箴言」を出來得る限り長く續けたいと願つてゐるが、「松原正名言集」のコーナーが種切れになる事はまづ無いであらう。それほど松原氏の著作は何處を開いても鋭い問題提起に溢れ、かつ面白いからである。

追記:松原氏は退職後、早稻田大學名譽教授となられた。略歴や著作等について、詳しくは「言葉 言葉 言葉」「松原正ウェブサイト」等の關連サイトを參照されたい。

(平成12年3月26日。同年7月31日、平成16年4月27日追記)

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コメント

私が本當の松原ファンになつたのは、その後暫くして、『人間通になる讀書術』を讀んでからである.

小生もこの本を読んで衝撃を受けました。


柿木 博夫(kakinoki hiroo)

投稿: 柿木 博夫 | 2004年8月27日 (金) 00時26分

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