« 箴言集 ソポクレス | トップページ | 箴言集 イエス »

2004年4月29日 (木)

箴言集 森鷗外

兎に角多數者の用ゐる者に限つて承認すると云ふ論には同意しませぬ。――森鷗外
(「假名遣意見」『森鴎外全集 第14卷』 ちくま文庫、168頁)

 多數は力である。だがパスカルが喝破した如く、力が強い事と正しい事とは別物である。數の多寡は判り易いから、知的に怠惰な人間は愚かにも物事の正邪をも數で判斷しようとする。しかし、さすがに「皆が使つてゐるから『現代かなづかい』は正しい」と非論理的な事を露骨には言ひかねるのか、あれやこれやと屁理屈をこね囘す。曰く、「コミュニケーションの重要性を無視してゐる」、曰く、「言葉は時代につれて移り變るのが當然」、曰く、「そんなに昔の言葉が好きなら文語體で書け」……等々。
 こんな難癖を附ける手合に限つて、政治的な議論になると「少數意見を尊重せよ」などと拔かすのだから笑止千萬である。外國の事は良く知らないが、少なくも日本では、昔も今も「多數者」を(言外にすら)批判する事は惡なのである。なほ、引用したちくま文庫版全集では、鴎外が「新かなづかい」への反對意見を明確に主張したこの文章の全てが「新かなづかい」に改竄されてゐる。「死人に口無し」とはこの事である。(平成12年12月1日)

|

« 箴言集 ソポクレス | トップページ | 箴言集 イエス »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/30565/510432

この記事へのトラックバック一覧です: 箴言集 森鷗外:

« 箴言集 ソポクレス | トップページ | 箴言集 イエス »