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2004年4月29日 (木)

呉智英氏の思ひ出(2) 熱中

 『封建主義…』の後、『インテリ大戰爭』や『大衆食堂の人々』なども讀むうち、すつかりファンになつて仕舞つた。呉氏の思想が徐々に理解出來るやうになつた事もあるが、同じくらゐ魅力に感じたのは文章である。主張は明確、表現は明晰で紛れが無い。「逃げ隱れしない男らしい文章だ」と私は感服した。そのうへ讀者を笑はせるサービス精神が旺盛である。

 好例を一つ引かう。實在の狂人「芦原將軍」をモデルにした芦原金次郎「都立松澤大學」教授と呉氏との架空對談である。「トンデモ本」ブームの發信源にもなつた雜誌「寶島30」連載當時、私はこのブラックユーモアに滿ちた問答を眞先に讀んだ。

芦原  君の『サルの正義』、讀みました。そこに収録されてゐる死刑論、つまり、死刑を廢止して復讐を認めよといふ主張は、それなりに面白い。通俗的な死刑是非論とはちがふからね。だが、まだ踏み込みが足りぬやうだ。

 おそれいります。

芦原  まあ、死刑についてはベッカリア君などもいろいろ研究をやつてゐたやうだな……。イタリア留學時代からずつと會つてをらんが、最近は元氣なのかね、あまり噂も聞かないが。

 ずつと前に亡くなりました。

芦原  えつ、死んだのか。ミラノ大學の學食ではよく一緒にスパゲッティやマカロニを食つたものだつた。さうか、ベッカリア君も死んだか。

 のちにはミラノ大學の教授にまでなられたやうですよ。フランス革命の頃ですけど。

芦原  惜しい男を亡くしたものだ。私とは考へは違つてゐたがね。(中略)

 なるほど。出典は韓愈でしたか。その韓愈にも、先生は留學中にお會ひになつてゐらつしやいますか。

芦原  バカか、君は。唐の時代の思想家に、どこへ留學したら會へるのかね。君は韓愈も知らないと見える。

 お恥づかしい次第です。(『賢者の誘惑』より)

 呉氏は『知の収穫』の小林よしのり論において、宮武外骨の言葉を引き、小林マンガの主人公を「過激にして愛嬌あり」と評してゐる。寧ろこの評言は呉氏自身にこそ當嵌まる。(平成12年7月31日)

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